【あきた白神〜3日目から遡上する世界遺産の旅 備忘録】

あきた白神への旅から戻ってから本日で1週間になる。
映像制作集団に属しながらも映像センスが全くなく、家族に指摘されて落ち込んでいるうちに1週間が過ぎた。

3日間のあきた白神の世界遺産を巡る旅で、体の細胞が入れ替わるくらい白神山地の清澄な空気を吸い込んだ。安全を期して団体で動いた3日間だった。

旅の最後に「白神山地 森のえき」で干しわらび、水煮のふき、白神の天然サワモダシ(ナラタケ)を買った。太平洋沿いの海辺に住む私には手に入らないものだ。

さらに新鮮なマコモダケや藤里のまいたけキッシュ、八峰町の日本酒、ハタハタ寿司も買ったので、帰京便搭乗の際、機内持ち込み用サブバッグのファスナーが閉まらなくなった。
どれもこれも人の手がかけられた白神の恵み。
最高のお土産を数ヶ月かけて少しずついただくのが私流の旅のお楽しみ。

東アジア最大級のブナの原生林が広がる白神山地は、古代よりほぼ人の手が及んでいない地域だ。
1993年12月に世界自然遺産に登録されたことでそのままに保たれている。
いわば生態系の宝庫で、古くは縄文人もその恩恵を授かり、生きていた。
水をたっぷり蓄えるブナを中心とした植物の恵みは、海へと注ぎ、循環して人間をはじめとした動物にも与えられてきた。

白神コミュニケーションズの後藤千春さんは
山や自然のプロフェッショナルガイド。
写真家なので、
撮影にいい時間、いい場所を熟知している。

岳岱の森を歩いていたとき、ガイドの後藤さんが樹木の熊の引っ掻き傷を指差しながら
「マタギは山で獲れるものを、授かりもの、と言います」と、教えてくれた。
山の神様が与えてくれたもの、という意味だ。

熊の引っ掻き傷あり。気をつけて歩く。

空を見上げると、ブナの葉が、幾重にも重なって風に揺れていた。葉は光を透かし、地上に太陽エネルギーを注ぐ。

スギ林とはずいぶんと森の明るさが異なる。


私は、ブナ林を歩くと温かなやさしさに包まれたような気持ちになる。その丸みを帯びた葉っぱのせいだろうか。
ここの山の神様は女性なのかもしれない、なんとなくそう思った。

以前、能登半島のブナ林を愛する能登っ子にいかにブナ林が好きかと力説されたことを思い出した。彼女も、ブナ林のことをやさしいと表現していたっけ。

ブナは人間の役に立たないという理由から、木へんに無で橅(ブナ)と書くようになったという説がある。
一方では、森の女王と呼ばれている。
見返りを求めない、母なる愛で生態系を育んでいるからなのかもしれない。

ランチは、鍋ッコ遠足。
おおらかでブナのような二ツ井っ子の菊池文子さんと彼女をヘルプするせいこさんがきりたんぽ鍋を皆に振る舞う。
前日にじっくりと比内地鶏のガラからとった味が舌に、体に沁みる。
セリの根、きりたんぽ、ほろほろと崩れる鶏肉、香り高い舞茸、牛蒡……そうそう、これ、この味!
大好きな秋田の鍋ッコだ。

きりたんぽ鍋はお米の収穫を喜ぶ食べもの。
新米のもちもち感がたまらない。
最高のおもてなしご馳走だ。

毎回のごとくお腹がはちきれそうになるまで食べてしまう。お腹をこなれさせるために再びブナの原生林を歩き出す。次は湿り気のあるブナの二次林。
チョロチョロと水が浸み出す場所に辿り着き、手をかざす。
川の始まりに触れ、山の胎動が手のひらに伝わった気がした。

水の波紋に、遠く藤里駒ヶ岳が映って。

岳岱の森を出た後は、くるみ台キャンプ場でブナの実を混ぜ込んだクッキーを焼き、ティータイム。
ほどなく空港に向かう時間となり、旅程は終了した。

ブナの実が香ばしいソフトクッキーと、
ガイドの菊池さんの白神おすすめスイーツ。

今回の旅の仲間は、山や自然を愛する人たち。
山岳ライターの小林千穂さんと俳優の小林綾子さんは、同じ山の日(8月11日)生まれの生粋のマウンテンウーマン!
NY在住のフリーアナウンサー、大橋未歩さんは国内外のトレイルを歩いていて、白神山地は2度目とか。
3日前に初顔合わせしたとは思えない打ち解けっぷりで、移動中も山やそれぞれの話などおしゃべりが絶えず、本当に楽しかった。 

左から大橋未歩さん、小林千穂さん、菊池文子さん、私、小林綾子さん。写真は綾子さんからいただいたもの。お揃いの、秋田犬のマスコットと(小林綾子さん撮影)。

帰途、混雑する大館能代空港で、4人でお尻を半分ずつにして2つのシートに座り搭乗を待った。
皆、足元のリュックやバッグはお土産でパンパンに膨れ上がっていた。

今回のメンバーは一般社団法人白神コミュニケーションズ代表理事で白神地域の名物ガイドの後藤千春さんの招集によるもので、本気モードの登山者ばかり。
なぜ私!?と驚きつつも久しぶりのあきた白神に胸弾ませて向かった。最後の秋田取材から6年ほど経ち、その間に脚本という新しい領域に挑戦していたので以前と感じ方や受け取る情報が少し深まったようにも思えた。

久しぶりといえば、海辺の風景が一変したことには驚いた。風景が変わるのはあっという間。
旅人としては、ハタハタ寿司もみずもあきたこまちも日本酒も変わらず口にできること、そのことに感謝した。

このところのクマ騒動で秋田の皆さんはきっと不安な日々を過ごされてることだろう。
これまで、秋田の自然と暮らしの繋ぎ手に数多く出会ったのもあり、今時期の旅の投稿が、心配や不安を煽るものではなくその方たちの足元を固くするよすがになったら良いと願う。

ここで締めて、2日目に遡れるのか、私?!

続く。