2016年、新しい年のはじまりに、こんなSNSのメッセージをいただきました。
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突然のDM失礼します!
僕は今21歳公務員です。
将来の安定性や給与面では一切困っていません。
でも、毎日が同じことの繰り返しで人生が全く楽しくありません。
僕は国内しか旅行はしたことがありませんが、旅が大好きです。
世界中を旅できる仕事を探していたところ、ネット上で朝比奈さんのことを知りました。
トラベルライターになった経緯も読ませていただいました。
僕の夢は、世界中を旅して、たくさんの人と出会い、ふれあい、
その国の文化、食事、自然など様々なことを自分の目で見て、歩くことです。
正直英語はほとんど喋れません。カメラの技術があるわけでもありません。
こんな僕でも、トラベルライターになることは可能ですか?
僕は、お金持ちになることが幸福だとは思いません。
自分のやりたいことをやったり、行きたい場所に行くことで人生を充実させることこそ、本当の幸福だと思っています。
周りの人には、考えが甘い。将来を見据えろ。
もし生活できなくなったらどうする。など言われました。
全くその通りだと思います。でも、僕はそれでも世界を周りたいです。
朝比奈さんにとっては何の関係もない、こんな迷える若者ではありますが、何か助言があればと思います!
長文で失礼しました。
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ここ数年、トラベルライターになりたい!どうしたらなれますか?と
聞かれることが多くなりました。
旅情報を発信する媒体が紙からインターネットへ移り変わるなか
「トラベルライター」「トラベルジャーナリスト」という職業は
急速に認知されるようになった職業であると同時に、
誰でもプロフィールにその肩書きを名乗れるようになりました。
特に資格試験などがない職業なので、自称トラベルライター、ジャーナリストも誰に認めてもらうことなくそのように自由に肩書きにできるのです。
それくらい看板を掲げるのはハードルが低くなったと思います。
本来ならば、それ相応の経験がないと看板は掲げられなかったのですが今は時代が変わりました。なので、私を含め肩書きでモノをいう人の話は鵜呑みにしないようにしましょうね。
そうはいいながらも、これを書いている間に、別の方からも「身近にトラベルライターになりたい人がいるのでコンタクトが入ったら何らかの反応をしてあげてください」というメッセージが入りました。
この機会に、以前書いたものから少し変化している私なりの答えをご本人の了承を得て、下記に書きたいと思います。
まず、2016年の私の答えは、
英語ができなくても、カメラの技術がなくても
トラベルライターにはなれます!
21歳ですよね。
家庭などよほどの事情がない限り、
何度でもリスタートできる年齢であると思います。
私は30歳過ぎてから独立してトラベルライティングを本格的に仕事にしました。
最初に書きましたが、あの頃よりも今は
ずいぶんとハードルが低くなっていますよ。
英語も何歳からでもはじめられます。
私は英語がまったく上達しないので
いっそ英語を学ぶところから記事にしてみようと
フィリピンに語学留学をして
レポートしたこともあります。
これは出版社や英語学校に企画をもちかけて実現した
俗にいうタイアップ企画というものです。
カメラは私のウェブに載っている記事を見ての通り、上手ではありません。
すべてがひとりで完結する仕事や世界観もありますが
編集者、ライター、写真家、デザイナー、印刷会社あわせて
一線で活躍する人とお互いの技術を尊重し
ときにはぶつかりあいながらも切磋琢磨して仕事をすることが重要だと思っています。
なので、自分のカメラの技術を磨くというよりも
カメラマンが面白い瞬間に出合えるのはどんなときか
デザイナーがレイアウトしやすくて、
かつ取材で感じたムードがちゃんと伝わる写真は
どんな写真なのかと考えながら
いろんなビジュアルを見るようにしています。
では、どこからトラベルライターをはじめたらよいかというところになりますが、100人のトラベルライターを募集している旅情報サイトもありますからそういったところからスタートされるのもいいでしょう。
おそらく、そういったところは即戦力を求めているので
取材のチャンスや旅の文章を発表する機会はもらえると思います。生業にできるのかは別の話ですが。
また、どのような旅をしてどんな文章を書きたいかは
旅や文章をはじめてみないと、考えることができません。
現実と希望の狭間にたち、自分に芽生えたものを
育てていくかどうかは自分にかかっているのです。
どんな仕事をするにしても今いるところを飛び出すには
自分を“冒険者”にできるかどうか……
まずはそこにかかっていると思います。
ひとりで旅をはじめると、教科書には載っていないような
大切な気づきがたくさんあります。
でも、旅をしながらインターネットのなかで旅の文章を書いていきそれでお金をもらっていくと
せっかく旅で出合った素晴らしいものと
矛盾した世界にいるような気になるかもしれません。
この世をとりまく厳しい現実にはっと気づき、
このまま旅をしていてよいのかと思うこともあるかもしれません。
もしかすると、そのことで大好きだった旅が嫌いになってしまう可能性もあります。
心温まる人たちにやさしくされたり、雄大な景色の中に身を置いたりすることで自分の人生を生きる船出をできた自分に感謝するときもあるかもしれません。
もっと広い目で見ると、そういった環境が地球に存在することにも感謝し、文章以外に何か行動を起こしたくなるかもしれません。
安定した会社を辞めて旅に出て人生を棒にふることになるのか。
こればっかりは旅も文章もフリーランス人生も
はじめてみないとわかりませんし、
結果、この道を選んでよかったと思えるのかは
ある程度経験を重ねないと感じられない気がします。
どんなトラベルライターになりたいのかという
イメージすらも、はじめてみないとわからないでしょう。
海外に住んでいたので
そこでトラベルライティングのキャリアをスタートさせましたが
最初はおすすめのお店情報や季節の現地情報のようなものからはじめ、それでは飽きたらなくなって市場の地図を勝手に作って企画に出したりしていました。
そのうち、どこかの場所で真剣に生きている“誰か”や
大切に守られてきた“何か”があまりにも素敵だから
そういった人や現象を取材して媒介者として
それを知らない誰かに伝えたいと思うようになりました。
どういう風にその場所のことを伝えるかという技術は
ライターとして独立する前に旅行ガイドや雑誌の編集者として
客観的にものを見ることを鍛えられたので
自然と身についた気がします(いや、身についていないかもしれませんが)。
あちこちへ出かけてはじめて
「こうでなければいけない」という
固定観念が強いことに気づき、
その縛りをほどくのにずいぶん時間がかかりました。
いっとき、人生も含めてまるごと旅に出かけたことで
他人の価値観は私とは違うもので
それはその人にとってとても大事なものだと
尊重できる気持ちを本当にもてるようになった気がします。
同時に嫌いなもの、許せないことも増えました。
人間はどの段階にきたら成長したといえるんでしょうか(笑)。
人によっては別の手段で自分を成長させることができると思いますが私には旅が必要だったようです。
ここでいう、旅とは世界各地に動く旅ではなく
精神的な旅も含まれています。
現在、私はトラベルライティングで食べていけていますが
フリーランスになってすぐに大きな仕事に恵まれたので
トラベルライターとしては収入はよかった気がします。
311後は旅の仕事が激減したと同時に旅への情熱がなくなり、
無気力状態でずいぶん貯金を切り崩しました。
自分なりの言葉を紡ぐためには経済的に自立をしていないと
私の書いている文章が、“嘘”をベースにしたものになってしまうので震災後に家族を含めて足元を見つめ直すことができたことはよかったと思います。
現在は自分探し、知的好奇心探求などの旅というよりは
日々の暮らしを営むなかでの旅の位置や可能性を
考えることが多くなりました。
Kさんは若いので、老後の心配はまだしなくてもいいと思っていますが貯蓄額や安定度を考えると、どこかに勤めていたほうが
これからの人生の荒波は乗り越えていけるのかと思います。
私は、今の自分のものの見方や心のあり方のべースをつくるために休みなく働いて貯めたすべての貯金をあるとき、取材や旅、趣味など自分という人間を見つめるために費やしてしまいました。
それのすべてが身内からは「ムダ」に見えたようで
ずいぶんブーブー文句を言われましたが、
18歳から親元を離れて暮らしているので
そのあたりは気にしませんでした。
ここまで書いて改めて、Kさんに、そして私に質問してくださった方々に「なぜ、職業としてトラベルライターがよいと思ったのか」「トラベルライターになる方法を知ってその通りになると思うか」とやさしく問いかけたいと思います。
旅が好きだとしたら旅の何が好きなのでしょうか。
誰かに伝えるまでの何かがその好きにはありますか?
最初はなくてもいいと思います。
もしくはないほうがよいかもしれません。
もしかすると、トラベルライティングをしていくうちに
旅先で触れるものをもう少し掘り下げて
民俗学や人類学などを学び、研究をしたほうが
性に合うかもしれません。
もしくは、得た知識や経験をもとに
実際に人を巻き込んで何かの行動につなげたいと思うかも?
そうなると、今のままの職業で
お給料をもらいながら、休暇もとれる状況のほうが
もしかすると有意義に旅を行えるかもしれないですよね。
もちろん、ホテルやレストラン業界に特化するなど
テーマを決めて取材を重ねていくと
それはそれでやがて専門家としての仕事になる可能性も高いので
旅をしながらその職業を目指すのもよいと思います。
本当の専門家になるには、ある程度取材数を重ね、
業界の事情を知り、自分の意見を述べるためにも
広くものを知らないなれません。
現在、Kさんの目指したい方向は
そことは違う気がしていますが、念のため。
自分の人生を自分で創造するという自覚を持ち、
どこにも従属しない気持ちでいないと
ちゃんとしたフリーランスの立場で他人に何かを伝えることを
長く仕事にすることは難しいかなと思います。
例えば、旅というプロジェクトをどのように考え、
関わる人たちとお互いを尊重しあい
そこにお金というものを発生させていくのかということを
わきまえたうえで、職業ライターになるのか
それとも独自の視点で業界の問題点を追及していくジャーナリストになるのか、エッセイスト、コラムニストになるのかなど
次の方向性が見えてくると思います。
Kさんは、あと20年間で自分の人生を使ってどんなことをしたいですか?
もう、答えは出ているようですよね!
Have a nice journey!
補足
現在、プロのトラベルライター、ジャーナリストは、活動するフィールドは幅広く
新聞や機内誌、雑誌、専門誌、書籍などインターネット以外の
媒体への執筆のほうがメインの活動としている人も多いでしょう。
経験を積んだプロの目で丁寧にモノゴトを拾い上げ、
異なる文脈をつなぎあわせ、また別の文脈を持つ場所へと伝えていく文章は読者の目に届くまで何度も校正、校閲がなされます。
それが偏った歴史観や事実に基づいていないかなど
プロによってチェックされると、赤字だらけになります。
そうやって打たれうちひしがれながらも何度も修正して
はじめて誌面に掲載されます。
技術に対価が支払われる仕事というものはそういうことだと思います。
ネット上の校閲の入っていない文章は
めちゃめちゃなことも多いのですが
読み物として面白いものもあり、
どれがいいと判断はつけにくいところですね。
旅の情報は要点をおさえてわかりやすければそれでよいという読者もいればそこに書き手の根本思想、情熱がないと物足りないという読者もいます。
インターネットや自主制作の本など、
書き手に自由な発表の場があると同時に
読み手にもその気になれば裏の裏まで情報をつかむチャンスが増えました。
読者のリテラシーが上がると、表層的な二次情報が蔓延することもなくなるかもしれません。
雨後のタケノコのように出ているメディアと差別化をはかるために「質の向上」を求めるメディアもあります。
そういった意味では、文章を読む人は、誰がどのようなスキルを持ってどんな思いを持って土地に赴き、内容を紡いでいくのかという目線で文章を読むのも面白いと思います。
それはすなわち自分が自分の言葉に責任をもって
発信していくことにもつながってきますから。
なんだか自分の首を絞めているような気がしてきました……。
どういった背景でその文章が存在しているのか、
そしてその場所に位置づけられているのかということを
よくよく眺めていくと、自分の書きたい場所や内容が見つかるかもしれません。
参考になるかわかりませんが、安易にHOW TOを求めては
トラベルライティングの入り口にたどりつけない気がするので
こんな書き方をさせていただきました。
特に大きな目標を掲げてプロジェクトを行っているわけではなく
ささやかにお仕事をさせていただいている状況を振り返り、
生意気だなと思う部分もありますが
人間はいつも進化形と思い、Kさんよりちょっぴり先輩ということで
今のものの見方を正直にありのままに書かせていただいています。
Kさん、2016年のはじめのブログに、
日頃から気になっていたことを
書き留める機会をいただき、ありがとうございました。