お盆休み。
ゆっくりしたいなと思いつつ仕事の資料を持ち込んで帰省中。
母方の祖母か90歳と高齢なので今、母は自身の実家で祖母とともに住んでいる。
なので、今回は田んぼの真ん中にある祖母の家に私は帰った。
白髪交じりの頭にカチューシャをつけて迎えてくれた祖母。
母の介護のおかげか、寝たきりにもならず
会うたびに髪にツヤ、肌には透明感が増しているような気がする。
ちょうどお盆の時季は散居村の一角にある
老人しか住んでいない大きな家も、
今は都市部から戻ってきた親戚連中が少しばかり集まって、
昼間はそれぞれ好きなことをやりながらも
食事の時間はなんとなく、はなやぐ。
だから、ふだんは化粧もしない祖母も少しだけ、おしゃれをする。
お昼どき、にぎやかしい部屋の端でちょこんと座りながら
おしゃべりに花を咲かせる叔母や母の話に
ときおり存在を主張するかのように割って入り、
夜ごはんはどうするの、誰誰はいつ帰ってくるのと
何度も同じことを確認する祖母を見て、
介護をする私の母がこの家の台所を預かったとしても
やっぱり祖母にはこの家を仕切っている意識があるのだなあと思った。
玄関をあがり、居間に入るとサイドテーブルには
韓国語が書かれた海苔やチョコレート、冷麺、薬膳酒
ベルギーからの焼き菓子などが積まれている。
これは、世界中を飛び回る従兄弟が戦利品のように
出張先から持ち帰ったもの。
よっぽど美味しいものや珍しいものに出会わない限り
家族へのお土産ものを今では買わなくなった私からは
i Padの写真と話がお土産がわり。
教員だった祖父は退職後、世界中を飛び回りたいと話していて
その元気さが勢い余って、ひとりでスーパーカブに乗ってでかけた先で
山菜狩りをして崖から堕ちて田んぼにはまった。
幸い、田んぼに水がたまっていたので一命をとりとめたのだが
その代償に半身不随になっってしまった。
そんな祖父を祖母は25年もの間、介護をしてきた。
寝たきりになってからも
「ヨーロッパに行くんだ、アメリカに行くんだ」と言っていた祖父。
命の灯が消えそうなるとぎりぎりのところからも
旅行に行くんだという執念で生還してきては気力だけ蘇り、
ベッドの中で本を読んだり、映画を観たりして次なる旅先に想いを馳せていた。
亡くなる数年前から従兄弟と私が毎月のごとく海外に出るようになったのは
祖父が自分のかわりに「出かけてこい」と背中を押していたような気がしてならない。
5年前に祖父が亡くなり、少し元気が亡くなった祖母は
海外の珍しいものを持っていってもあまり響かなくなった。
それでも、こちらの旅の話を聞き流しているのかと思うと
ときどきは鋭い質問をしてきたり
写真のなかの思いもがけないものに興味を持ったりするから気が抜けない。
老人だと思って一方的に教えようとすると、とたんに、ガツンと突っ込まれる。
そういえば、祖父を看てきた祖母は、
海外どころか国内旅行もあわせて出かけていないし
出かけたいと言っているのを聞いたこともない。
祖母は祖父のどんなところがよくて長く連れ添ってきたのだろうか。
夢をみながらも結局は出かけられなかった祖父を
欲求不満にさせないために話し相手になって
空想旅行に出かけていたことで満足していたのかもしれない。
とするならば、ツッコミ上手も25年で鍛錬されたものとなれば
年季が入っているので太刀打ちもできやしない。
彼女の意識がぼやっとする前に
いい「返し」で笑わせることができるようになるといいなと思う。
そうそう、ここに戻ってきて気づいたのは
親類縁者よく食べ、よく飲み、よくしゃべるから元気なこと。
旺盛っていいことだ!