雪国ガストロノミーツーリズム。

この秋から、他の専門家とともに「雪国観光圏」で催行する外国人向けツアーのアドバイザーをしている。
11月14日〜15日はツアー本番。1泊2日の「雪国ガストロノミーモニターツアー」に同行してきた。

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収穫の成果を見せ合うと、やる気の差が歴然!
ゲストはニューヨークからセレブリティシェフ、各国の食文化を撮影する写真家、東京から日本在住のコラムニストなど。きのこに詳しいガイドによるきのこ狩りや雪国A級グルメに認定されている「今成漬物店」の見学で1日があっという間。夕食前はスパークリング日本酒を片手に、越後湯沢駅前のお宿「HATAGO井仙」シェフによるきのこ料理教室も。
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スギエダタケは少しだけ杉の匂いがする。
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今成漬物店の蔵の中。菌の働きで作る錦糸瓜(そうめんかぼちゃ)の粕漬け。粕は八海山の純米吟醸なり。
 HATAGO井仙にお勤めのきのこ名人、小野塚さんが英語を交えてきのこの説明をし、難しい内容は地元在住スキーガイドのパトリックさんが翻訳をする。参加者のコラムニストは東京でツアーを催行するガイドも行っているため、シャイな湯沢人に代わってツアーを盛り上げてくれた。
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だしをひいてからマイタケを投入。おいしい炊き込みご飯になった。
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地元の妻有(つまり)ポークをゆっくりと温めてからスモーク。
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収穫したキノコはけんちん汁に。だしにキノコの風味が加わって深みのある味に。おいしいと参加者に評判だった。

今、ニューヨークでは、きのこ狩りがトレンドなのだそうだ。
インスタなどで”foraged”と検索してみると確かに素敵な写真がヒットする。参加者にどうしてかと聞いてみたら「忙しすぎるので、自然回帰したいのでは」との答え。どこの国でも都市部で働く人はエネルギッシュに動き回っているので、どこかで息抜きが必要なんだろう。よく、地方に行くと都市部で働く人の生き方を可哀想などと耳にすることがあるけれど、いろんな生き方があるのでそれはそれでよいのではとしておきたい。生息域が違うところで双方のニーズが合致すると、こういうツアーの存在が生きてくる。
 
トレンドを追いかけずサステイナブルにつながっていくものをと取材をしてきたけれど、この頃はそれ自体がトレンドになっていることを実感する。今まで表に出てこなかった価値観や磨き上げられた個人のスキルがフォーカスされ、それが新しい世界を紡ぐひとつになっているとしたら、それはトレンドという言葉の枠には入れられないだろう。
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地元の人にとって何気ない景色こそ、価値のある風景とばかりに道中車を止めてゲストが写真を撮っていたのが印象的だった。

雪国は、やがて半年近く白い雪に覆われる。
深い雪の中で育まれたものに価値を見出した雪国ガストロノミーツーリズムは、食をテーマにさまざまなツアーを生み出していくのだろう。昨年、地元のみなさんの編集教室に携わったが、そのとき皆が選んだテーマは「米」だった。次号は「雪」だ。いまあるものの価値を知っていて誰かに伝わるように自分たちでしつらえ直す方法を会得したなら、きっとどのようにでも時代の波を乗り越えていけると思う。

 
旅人は、知らない場所に旅に出て、地元の人に案内してもらったり知らないことを知ることに喜びを感じている。地元の人がたくさん自分の宝を知っていること、その一部をシェアしてくれることが旅の醍醐味につながっているのだ。適正価格のツアーがあると、土地に知人のいない旅人たちには本当にありがたい。そしてそれが土地に住む人たちの充足感にもつながっているものならば、ひとつの経験の価値は計り知れない。
※この記事は11月16日am7:30に一部誤字を修正し、リンク先を追加しています。