去る1月27日(水)、16年前に手がけた『巴里の空の下オムレツのにおいは流れる レシピ版』(河出書房新社)が復刊、発売されました。
2004年に出版されたこの本はシャンソン歌手の石井好子さんによる大ベストセラーエッセイ『巴里の空の下オムレツのにおいは流れる』に登場するおいしそうな料理をレシピ化したものです。当時は扶桑社から出版しましたが、版を重ねるも月日の流れとともに絶版になっていました。

今回、2010年の石井好子さん没後10年のタイミングで河出書房新社の石井さんの本を数多く手がけられている編集者、渡辺真実子さんにお声がけいただき、編集後記を書き下ろしました。
幸い、石井好子さんとのやりとりのFAX やメモ、手帳など多くの資料を残していたため、見返しながら筆をとることができ、まるでタイムトラベルをしているかのようなひとときを過ごしました。
同時に、いっときの清々しさと引き換えに、貴重な資料を断捨離をしなくてよかったと胸を撫で下ろした瞬間でもありました。

本の骨格を作るために書いたラフも発見。何冊か書籍を手がけていますが、全ページのレイアウトをつくるのが一番楽しい作業です。レシピを数値化してくれた料理研究家の須永久美さんの写真を石井さんに確認後、デザイナーの藤牧朝子さんやスタイリストの杉村順子さん、カメラマンの柳田隆司さんとともにビジュアルを具体的に考えていきました。料理の方は当時阿佐ヶ谷にあったカフェ「pause 」シェフの五十嵐圭さんが担当。五十嵐さんは現在札幌でリストランテのパン「pausepane」を営んでいます。翻訳家の板倉克子さんにはフランス語の監修をしていただきました。

本書はどこか懐かしい洋食のレシピが詰まった内容でありながら、石井好子さんの書くエッセイの世界への入り口でもあります。河出文庫から8冊のエッセイが出ているので、興味を持たれた方はぜひご覧ください。
実は、今回の編集後記で初めて明かしたことがあり、そちらはエッセイファンにとっては垂涎ものの内容です。
よかったらご覧いただけると幸いです(ヒント:石井さんが自ら器を選び、調理された料理があります)。

『巴里の空の下オムレツの匂いは流れる』右は暮しの手帖社から出版された花森安治さん装丁の単行本。左は河出文庫版。

当時、扶桑社でこの本を担当してくれた編集者の山野佐知子さん、石井好子事務所の矢野智子さんには本当にお世話になりました。この場を借りてお礼を申し上げたいと思います。

高輪にあった石井家、中目黒の藤牧さんの事務所、白金の柳田さんの事務所、阿佐ヶ谷の「pause」……16年前に何度も通った日々を思い返しながら、人と人が顔を付き合わせて何かがうまれていくことの尊さをこのコロナ禍にひしひしと実感しました。

写真は、エッセイの内容を加味しつつつ、昭和の少しレトロな食卓風景を目指しました。

夏に河出書房新社へ足を運び、渡辺さんとともに段ボール何箱にものぼる石井さんに関する記事のスクラップを仕分けしました。
数々の記事や新たに読んだ著書から垣間見える石井さんは、当時、働く女性のパイオニア的な存在でした。
舞台で活躍するほか、数々のエッセイの執筆や錚々たる昭和の財界人にインタビューをするなど華やかな世界に身を置きながらも、その裏では重すぎる責任のため辛酸も味わうことの多かったようです。その背景を知らずに接していたのかと思うと、今更ながら恥ずかしくて顔もあげられないのですが、それでも、身の程知らずな若輩に対して正面から向き合って本づくりに参加してくださった御姿には感謝しかありません。

本書もエッセイと同様に長く愛され、そして親から子へ、友から友へと語り継がれるような存在になりますように。